吉見町・電線に迫る15mの巨木を制す。2人の職人が挑む、空中の境界線と安全管理
- いつきスタッフ

- 38false12 GMT+0000 (Coordinated Universal Time)
- 読了時間: 7分
①作業前
2026年4月4日。埼玉県比企郡吉見町の、静かな時間が流れる住宅地。今日、我々「株式会社 樹」が対峙するのは、天高く伸び、電線に複雑に絡み合おうとしている2本の巨木だ。樹高はおよそ15m。住宅地という環境下、そしてインフラである電線が目と鼻の先にあるという状況は、我々職人にとって心地よい緊張感をもたらす。
朝8時前、現場に到着した我々2人は、まず空を見上げた。曇り空をバックに黒々と伸びる枝先が、電線に触れるか触れないかの絶妙な距離で揺れている。風が吹けば接触し、最悪の場合は停電や事故を引き起こしかねない。この「一刻を争う境界線」を解消することこそが、本日の我々の使命だ。
2トンダンプと軽バンを、通行の邪魔にならないよう、かつ作業効率を最大化できる位置へ慎重に配置する。この現場において最も優先されるべきは、道路を通行する近隣の方々や車両の安全だ。8時を過ぎ、周囲の生活音に配慮しながら、登攀道具の最終チェックとチェーンソーの試運転を行う。
「電線への接触はゼロ。落とす枝の方向はミリ単位で管理」。相棒と短い言葉で意思疎通を図る。2人という最小限の編成だからこそ、互いの視線だけで次の動きがわかるほどの信頼関係が不可欠だ。複雑に入り組んだ枝葉の重なりを読み解き、どこから刃を入れ、どうロープで制御するか。17時の完了を目指し、吉見町の空を安全に切り拓くための第一歩が、今、静かに踏み出された。



②高所枝落とし
8時過ぎ。登攀(とうはん)道具一式を身に纏い、ヘルメットの顎紐を締め直す。見上げる先には、電線に複雑に絡まりながら伸びる15mの難敵。住宅地のど真ん中、そしてインフラである電線が目前にあるという状況は、一瞬の油断も許されない。私は、2本の巨木のうち、より電線に干渉している1本へと、静かに、しかし確実な足取りで登り始めた。
樹高15mの空中に身を置くと、地上とは異なる世界が広がる。風が通り、眼下には吉見町の街並みと、電線がまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされているのが見える。私の体は、メインロープとランヤード(安全帯)によって木にしっかりと保持されているが、ここからの作業こそがプロの手腕の見せ所だ。電線に絡んでいる枝を、ただ切り落とすのではない。切り落とした枝が電線に接触し、最悪の場合は切断や停電を引き起こすリスクがあるからだ。
ここで不可欠なのが、精密なロープワークだ。切り落とす枝にロープを掛け、地上で待機する相棒と呼吸を合わせながら、枝の重心を見極めて慎重に「吊り降ろし」ていく。一刃一刃、チェーンソーを走らせるたびに、枝は電線から数センチの距離を保ったまま、重力に逆らうように静かに降ろされていく。この「空中の境界線」での攻防は、腕の筋肉を硬直させるほどの緊張感を伴うが、同時に、自分の技術が地域のインフラを守っているという誇りも感じる。
「よし、そのまま降ろして!」 地上への合図。相棒の確実なサポートにより、切り落とされた枝は、何事もなかったかのように安全地帯へと吸い込まれていった。15mの空から地上まで、一分の隙もない安全管理を2人で徹底する。住宅地の静寂を破ることなく、しかし、電線から確実に巨木の手を解いていく。この高所での精密操作こそが、本日一番の山場であり、我々「株式会社 樹」の矜持だ。




③積み込み
高所での緊迫した「吊り降ろし」作業を経て、地上のキャンバスには次々と枝葉が横たわっていく。ここからは、吉見町の美しい住宅景観を速やかに取り戻すための「積み込み」作業だ。15m級の巨木2本から出た枝葉のボリュームは想像以上に凄まじく、これらすべてを2トンダンプと軽バンへと整然に収めていく。
2人という最小限の編成。一人が高所で切り続ける間、もう一人は地上で枝を受け止め、即座に「積み込み」に適したサイズへとチェーンソーで捌いていく。住宅地という限られたスペースにおいて、現場を「雑然」とさせないことは、我々が最も重んじているマナーの一つだ。道路に枝を散らかしたままにせず、常に動線を確保しながら、まるでパズルを組み合わせるように車両の荷台を埋めていく。
特に今回は、枝葉をただ放り込むのではなく、積載効率を極限まで高める工夫を凝らした。重量のある太い枝をダンプの底に敷き詰め、その隙間を細かい枝葉で埋めるように踏み込んでいく。この「人力での積み込み」は、5日間の連戦による疲労をじわじわと引き出す過酷な作業だが、満載になっていく荷台を見るたびに、地域の安全を一つひとつ積み上げているような確かな実感が湧いてくる。
軽バンもフル活用し、狭い路地裏に残った細かなゴミまで徹底的に回収する。通行する車両や歩行者の方々に「お疲れ様です」と声をかけられ、そのたびに背筋が伸びる。現場から「不要なもの」を速やかに消し去り、施主様が毎日見上げる景色をクリアにする。この地道な搬出作業こそが、高所での華やかな技術を支える、職人としての誠実さの証なのだ。

④伐倒
空中の難敵を制し、電線を脅かしていた枝をすべて取り除いた後、本日のクライマックスである「伐倒(ばっとう)」の時間がやってきた。枝を払われ、一本の巨大な杭のような姿になった幹。しかし、樹高15m級の幹が持つ重量は凄まじく、ひとたび倒れる方向を誤れば、住宅の塀や舗装路、そして守り抜いた電線をなぎ倒す凶器へと変貌する。
私は一度地上へ降り、幹の根元に立って、改めてその「重心」を見極める。木にはそれぞれ固有の曲がりや、目に見えない重心の偏りがある。曇り空の下、微風の向きを読み、倒すべき一点を定める。ここでも2人のコンビネーションが光る。私がチェーンソーで「受け口」を作り、追い口を入れる絶妙なタイミング。相棒は周囲の安全を最終確認し、倒れる幹の挙動をロープでコントロールする準備を整える。
「行くぞ!」
チェーンソーが咆哮を上げ、カシの硬い繊維を断ち切る。受け口の方向へ、幹がゆっくりと傾き始める。ピシッ、という木が裂ける音が静かな住宅地に響く。私たちはその動きから一瞬たりとも目を離さない。狙い通り、電線からも隣家からも遠く離れた、事前のシミュレーション通りの位置へと幹が吸い込まれていく。
ドォォォン……!
重厚な衝撃音が地響きとともに伝わり、15mの巨木が地面に横たわった。あんなに威圧的だった空の巨体が、狙ったピンポイントの場所に収まった瞬間、現場の空気は一気に緩和される。重心を見極め、一撃で仕留める。これまで数多の巨木と対峙してきた経験が、この一振りに結実した。住宅地という極限の条件下での伐倒成功は、我々「株式会社 樹」の技術と信頼を象徴する瞬間となった。

⑤作業後
17時。吉見町の住宅地に広がっていた作業機械の音が止まり、現場には静かな夕暮れが訪れた。朝、現場に到着した際に見上げたあの「電線に覆いかぶさるような15mの威圧感」はもうどこにもない。そこにあるのは、電線から十分な距離を保ち、風が吹いても、雨が降っても、もはやインフラを脅かすことのない、安全で健やかな空の広がりだ。
最後は2人で、住宅地の道路や作業エリア周辺を徹底的に清掃する。チェーンソーから出た細かなおが屑ひとつ残さないのが、「株式会社 樹」の流儀だ。2台の車両に満載となった枝葉と幹をシートで固く縛り上げ、現場の「余白」が美しく整えられたことを確認する。この最後のひと掃きが、近隣の方々への感謝であり、職人としての誠実さの証明でもある。
「これで安心しました、ありがとうございます」 作業を見守ってくださった施主様、そしてご不便をおかけした近隣の方々からいただいた温かい言葉。それこそが、15mの高所での緊張感や、人力積み込みの肉体的な疲労を、最高の充足感へと変えてくれる魔法の言葉だ。電線という生活基盤を守り、地域の安全に貢献できたという事実は、我々2人にとって何よりの報酬となった。
1日目の作業を無事故・無災害で終え、夕闇が迫る吉見町を後にする。バックミラーに映る、電線から解放されて広くなった空。明日もまた、別の現場で木々と向き合い、誰かの安心を創り出すために。私たちは心地よい疲れと共に、確かな手応えを胸に刻んで帰路についた。



記入者: 株式会社 樹
現場: 埼玉県比企郡吉見町
人員: 2人
完了日: 2026/04/04(作業1日目)
成果: 住宅地における樹高約15mの巨木2本の剪定および伐倒を完遂。電線への干渉を精密な高所作業と吊り降ろし技術で完全に解消。2台の車両への迅速な搬出・徹底した現場清掃を行い、無事故で全工程を終了。
コメント