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八王子市鑓水、神社に響くチェーンソーの咆哮。難所での「カシ・ナラ」特殊伐採、決戦の3日目。

  • 執筆者の写真: いつきスタッフ
    いつきスタッフ
  • 9 時間前
  • 読了時間: 7分

東京都八王子市鑓水。かつての絹の道が通り、歴史の静寂が今も守られているこの地で、私たちの「特殊伐採」ミッションは3日目を迎えました。

現場は、引き続き某神社の境内。昨日の作業で現場の空気感は掴んだものの、今日はいよいよ本丸とも言える「カシの木2本」の伐倒、そして「ナラの木」の枝払い作業が控えています。空を覆う巨木たちが、複雑に枝を絡ませながら聳え立つ姿は、何度見ても身が引き締まる光景です。





1. 3日目の幕開け:立ちはだかる「ツル」の要塞

朝8時、冷たく引き締まった空気が流れる中、作業を開始しました。今日の相棒は、チェーンソー、プーリー、ザイル、エイトカンといった、特殊伐採には欠かせない精鋭のギアたち。そして、小回りの利く軽バンに3人のスタッフが乗り込み、万全の体制で挑みます。

しかし、登攀を開始しようとした矢先、自然の洗礼を受けました。 ターゲットとなるナラの木の幹に、無数のツルが複雑に絡みついていたのです。

特殊伐採における登攀(クライミング)は、ただ木に登れば良いというわけではありません。命を預けるロープをセットし、安全を確保しながら進む必要があります。しかし、この分厚いツルの層が、その作業を著しく困難にします。一歩登るごとにツルを払い、足場を確認し、ロープの通り道を確保する。

「登るだけでも一苦労だ」

そんな声が漏れるほど、ナラの木は自らを護るかのように、ツルの鎧を纏っていました。しかし、私たちはプロです。焦らず、一歩ずつ確実にその鎧を解き、樹上の聖域へと歩みを進めていきます。





2. 空中の緻密な計算:枝の吊り下ろし作業(リギング)

樹上に到達した私を待ち構えていたのは、巨大なナラの枝葉です。 今回のミッションで最も神経を使うのが、この「枝の吊り下ろし作業(リギング)」です。神社の社殿や石碑が隣接するこの現場では、切った枝をそのまま下に落とすことは絶対に許されません。

ここで活躍するのが、プーリーとザイルを駆使した倍力システムです。 枝の一本一本にロープをかけ、重量バランスを計算しながらチェーンソーを入れます。切り離した瞬間に、枝が予期せぬ方向へ振られないよう、地上のスタッフと呼吸を合わせる。「行くぞ!」「よし!」という鋭いコールの後、数百度の重みがある枝が、まるで重力から解放されたかのように、ゆっくりと、そして正確に地上へと降りていきます。

写真に写っている、空を背負って枝に食らいつく職人の姿。これこそが、特殊伐採の真骨頂です。地上から見れば優雅に踊っているようにも見えるかもしれませんが、その内側では、風の流れ、木の重心、そしてロープの摩擦抵抗を常に計算し続ける、極限の集中力が維持されています。





3. 法面との戦い:滑る足元、問われる踏ん張り

樹上の作業が熾烈を極める一方、地上スタッフもまた、別の困難に直面していました。 今回の現場は急な「法面(のりめん)」、つまり斜面です。昨晩の冷え込みの影響か、足元は非常に滑りやすく、踏ん張りが利きません。

切り落とした枝を片付け、次に倒すカシの木の準備をする。その一挙手一投足に、斜面という負荷が重くのしかかります。足元が安定しない中でのチェーンソーワークやロープ操作は、通常の平地での作業の数倍の体力を奪っていきます。

しかし、これもまた「現場」です。 お互いの位置を常に確認し、声を掛け合い、誰かが滑りそうになれば即座にフォローに回る。軽バンでやってきた3人のチームワークが、この滑る法面という悪条件を跳ね除けていきます。



4. 職人の休息:切り株テーブルと「現場飯」の至福

時計の針が正午を回る頃、境内に差し込む日差しはポカポカと暖かく、春の訪れを予感させるほどでした。激しい作業で火照った体に、この陽気は最高のプレゼントです。

今日の昼食は、昨日切り出したばかりの立派な切り株をテーブルにした「現場飯」。 写真を見ていただければ分かる通り、これぞ職人の昼休みという光景です。お弁当やおにぎり、そして温かいお茶。

「この切り株、ちょうどいい高さだな」

なんて冗談を言い合いながら、午前中のツルとの格闘を振り返ります。過酷な現場であればあるほど、こうした何気ない休息の時間が、午後からのエネルギーをチャージするための大切な儀式となります。八王子の街並みを見下ろしながら、自然の恵みに感謝し、私たちは午後の「カシの木伐倒」に向けて牙を研ぎ澄ませます。





5. 堅牢なる巨木、カシの木2本の伐倒作戦

昼食を終え、暖かな日差しの中で体力を回復させた私たちが次に向き合ったのは、本日のメインイベントである「カシの木2本の伐倒」です。カシの木は非常に密度が高く、別名「樫(かたし)」とも呼ばれるほど硬い樹種。その重量感は、倒れる瞬間の衝撃の大きさを予感させます。

ここで真価を発揮するのが、午前中に苦労してセットしたプーリーとザイルのシステムです。25メートル級の巨体を、狙ったわずか数センチの隙間へと導くため、物理学的な計算に基づいた牽引を行います。

「受け口」を刻むチェーンソーの音が境内に響き渡ります。硬い木肌に刃が食い込むたび、鋭い火花のような熱気が立ち上る。慎重に、かつ大胆に。切り進める角度を何度も確認し、いよいよ「追い口」に刃を入れます。

「倒れるぞ!」

合図とともに、エイトカンで制動をかけ、ザイルでテンションを微調整しながら、巨木がゆっくりと重力に身を任せていきます。ドォォォン……という地響きとともに、カシの木が狙い通りの位置へ。石碑一つ、建物一つ傷つけることのない、完璧な着地です。これを2本、立て続けに成功させたとき、現場には安堵と高揚が混じり合った独特の空気が流れました。





6. 終わりなき「玉切り」と「集積」の美学

伐倒の興奮も冷めやらぬうちに、地上では「玉切り」と「集積」という地道な作業が始まります。今回、私たちは倒した材を「だいたい2m」というサイズに揃えて切り分けていきました。

なぜ2mなのか。それは、搬出の効率と、その後の有効活用を考えた「職人のこだわり」です。しかし、2mに切り分けられたカシやナラの丸太は、想像を絶する重さがあります。ましてやここは、足元の滑る法面(のりめん)。一歩踏み出すごとに、太腿の筋肉が悲鳴を上げ、呼吸が激しくなります。

「あと少し、ここを片付ければ道が見えるぞ」

声を掛け合いながら、3人のチームワークで丸太を運び、一箇所に集積していきます。写真にある通り、積み上げられた丸太の断面は、その木が生きてきた証である年輪を美しく見せています。乱雑に置くのではなく、整然と集積する。この「現場の美しさ」こそが、私たちの仕事に対する誠実さの現れでもあります。

チェーンソーで枝を払い、2mに揃えては積み上げる。単調に見える作業の繰り返しですが、これこそが神社の境内を元の神聖な姿に戻すための、欠かせないプロセスなのです。




7. 17時の静寂:やり遂げた3日間の集大成

時計の針が17時を回る頃、八王子の空は茜色に染まり始めていました。朝8時から始まった、ツルとの格闘、滑る斜面での踏ん張り、そして巨木の伐倒。そのすべてを無事に終え、私たちはついに3日目の全工程を完了しました。

見上げれば、昨日まで空を覆い隠していた重苦しい枝葉は消え、神社の境内には清々しい風が吹き抜けています。 「ありがとうございました」 施主様からいただいたその一言が、泥にまみれ、汗を流した私たちの心に深く染み渡ります。

軽バンの荷台に道具を積み込み、最後にもう一度、作業現場を振り返ります。そこには、私たちが心血を注いで整備した、明るく安全になった神社の姿がありました。ツルに阻まれ、滑る足元に苦しめられたからこそ、この景色には格別の価値があります。




8. 特殊伐採という名の「バトン」

八王子市鑓水、神社での3日間。 私たちが今回向き合ったのは、ただの「木」ではありませんでした。地域の歴史を見守ってきた神社の安全であり、そこで暮らす人々の安心でした。

ツリークライミングで空へと登り、プーリーとザイルで重力を操り、最後は人力で完遂する。重機が入れない難所だからこそ、私たちの技術は輝きを増します。 今回の現場で感じた「ツルの強靭さ」や「法面の厳しさ」は、そのまま私たちの経験値となり、次なる難現場を攻略するための糧となります。

「ここに木がある限り、私たちの仕事に終わりはない」

そんな誇りを胸に、私たちは3日間のミッションを終え、住み慣れた街へと帰路につきます。 八王子の緑を守り、次世代へと繋ぐ。そのための「バトン」を、私たちはこれからも全力で繋いでいきます。




 
 
 

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