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川越の空、25mの境界線。強風を読み、カシの巨木を「技」で制した2日間

  • 執筆者の写真: いつきスタッフ
    いつきスタッフ
  • 6 時間前
  • 読了時間: 7分

①作業前

2026年4月9日。小江戸・川越の静かな朝。我々「株式会社 樹」の精鋭3人が対峙しているのは、樹高25mに達する巨大なカシの木だ。今日で現場は2日目。昨日からの継続作業となるが、この高さになると一日で全てを終わらせることは不可能に近い。地上から見上げれば梢は遥か遠く、ビル8階相当の視界がそこには広がっている。

「今日は午後から風が出る予報だ。午前中に勝負をかけるぞ」。3人で円陣を組み、最終的な作業ラインを共有する。使用する機材はチェーンソー2台。そして、狭い住宅街の現場でも小回りがきく軽バンをベースキャンプに据える。25m級の巨木を扱う現場としては非常にミニマムな布陣だが、これこそが我々の「機動力」と「個々の技術」への自信の表れでもある。

カシの木は非常に硬く、そして粘り強い。長年、この場所で風雪に耐えてきた巨木の生命力を肌で感じながら、登攀(とうはん)用のギアを一つずつ装着していく。昨日の疲れを微塵も感じさせない軽やかな動きで、職人が地上を離れる。静かな住宅街に、作業開始を告げる道具の金属音が低く響いた。強風が吹き荒れる前の、嵐の前の静けさの中、25mの空中戦が再び始まった。




②高所伐採作業

樹高25m。ビルに換算すれば8階にも相当するその梢へ、私はメインロープとサドルを頼りにゆっくりと、しかし確実に登攀(とうはん)していった。見上げるカシの木は、長年この川越の地を見守ってきた神聖なオーラを纏いつつも、広がりすぎた枝葉は住宅街の空を圧迫している。今日はこの巨木の頂部付近、最も風の影響を受けやすく、かつ技術を要するエリアの剪定だ。

地上から15mを過ぎたあたりで、視界は一変する。足元には隣家の屋根が広がり、電線がまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされている。この環境下において、一片の枝も、一枚の葉も、下の構造物に接触させることは許されない。私は小型のチェーンソーをハーネスから取り出し、まずは最も電線に近い細枝から着手した。

25mの空中戦は、まさに「風との対話」だ。午前中はまだ穏やかだったが、時折吹き抜ける川越特有の突風が、カシの梢を大きく揺らす。その度に、私は幹に体を預け、風が止むのを待つ。そして無風の瞬間に、狙いすました一太刀をチェーンソーで入れる。切り落とされた枝は、地上で待機する相棒と呼吸を合わせながら、ロープを用いて「吊(つ)り降ろし」ていく。住宅地のど真ん中、そして25mの高さ。一分の狂いも許されないこの緊張感こそが、職人の技術を極限まで引き上げる。梢に少しずつ、そして確実に「光の道」が切り拓かれていった。






③小切り作業

25mもの高台から次々と地上へ降ろされるカシの枝葉。これらを、お客様から指定された集積場所へ効率よく収めるために不可欠なのが、この「小切り(こぎり)作業」だ。カシの木は非常に密度が高く、乾燥すると石のように硬くなるのが特徴。そのため、ただ積み上げるだけでは枝同士が反発し合い、巨大な「枝の山」になってしまう。

ここで地上班の職人が振るうチェーンソーの精度が試される。降ろされたばかりの瑞々しく、かつ重量感のあるカシの枝を、運びやすいサイズ、そして積み込みやすい長さに次々と切り揃えていく。特に今回は午後から風が強くなるという予報があったため、枝が風で飛ばされたり、作業エリアを塞いだりしないよう、例年以上のスピード感を持って処理を進める必要があった。

作業中、チェーンソーの刃がカシの硬い木質を捉えるたびに、鋭い音が現場に響く。私たちは、材の太さや形状を見極めながら、一瞬で「集積時の収まり」を計算して刃を入れる。バラバラの状態では制御不能なボリュームに見えるカシの枝も、この小切り工程を経て規格化されることで、初めて整然とした「管理された材」へと姿を変える。

3人のチームワークにより、25mの高所から降ろされるスピードに遅れることなく、地上での解体作業は進んでいく。カシの木特有の、どこか力強い香りが漂う中、私たちの足元には、午後の猛風を迎え撃つための「整理された枝」が、着実に積み上げられていった。




④ロープ作業

樹高25mのカシの巨木。その頂部付近で繰り広げられる剪定作業において、最もスリリングであり、かつ最も技術を要するのが、この「ロープ作業(リギング)」だ。2トンダンプではなく軽バンをベースキャンプにする今回は、巨大な材をクレーンで吊り上げるような力技は使えない。全ての材は、職人の腕とロープワークのみで、安全に地上へと降ろさなければならない。

地上班との連携が、この工程の全てを左右する。「行くぞ!」「了解!」。阿吽の呼吸でチェーンソーを走らせると、切り離されたカシの太枝は、重力に従って真っ逆さまに落ちる……ことはない。メインロープと、相棒が地上で操るコントロールロープによって、空中で静かに静止する。そして、住宅や電線を避けるように、狙い通りの軌道を描きながら、ゆっくりと地上へと降ろされていく。

25mという高所では、ロープの一掻きが、地上では数メートルの移動となる。カシの硬い幹に体を預け、風の影響を受けながらも、ロープのテンションを指先で感じ取る。切り落とすべき枝の重量、重心の位置、そして降ろすルート。これらすべてを一瞬で計算し、最適な結び目(ノット)を選択してロープを掛ける。

相棒と目配せをし、互いの安全を確認しながら、一本、また一本と、巨大なカシの枝を安全な「手仕事」へと変えていく。この緊迫したロープ作業こそが、25mの空中戦を支える、プロフェッショナルの誇り高き境界線なのだ。梢に少しずつ、そして確実に「光の道」が切り拓かれていった。




⑤目立て

カシの木は、その名の通り「堅い木」の代名詞。剪定作業を数時間続けるだけでも、チェーンソーの刃(ソーチェン)は目に見えて摩耗し、切れ味が落ちていく。特に25m級の巨木を相手にする現場では、刃の「逃げ」や「食いつきの悪さ」はそのまま高所でのリスクに直結する。だからこそ、私たちは休憩時間や作業の合間に、必ず「目立て」の時間を設ける。

地面に座り込み、ヤスリを手に取る。一刃一刃、適切な角度で、均一な力を込めて研ぎ上げ力強く。チェーンソーをただの「機械」として使うのではなく、自分の手足の延長線上にある「道具」として手入れするこの時間は、職人にとって精神を研ぎ澄ます儀式のようなものだ。

「よし、これでまた食いつきが戻る」。研ぎ終えた刃を指先で軽く確認し、再びエンジンを始動させる。目立ての質が良ければ、木に刃を当てた瞬間に「おが屑」が大きく、均一なチップとなって飛び散る。逆に切れ味が悪いと、細かい粉状のおが屑が出て、無駄な力が必要になる。

カシの強靭な木質に負けない鋭さを維持すること。それは、作業効率を上げるためだけでなく、切り口を美しく保ち、樹木へのダメージを最小限に抑えるための「樹」のこだわりでもある。研ぎ澄まされた刃を携え、私たちは午後の強風が吹き荒れる梢へと、再び意識を向けた。



⑥作業後

15時。川越の空を支配していたカシの巨木が、その枝葉を美しく整えられ、穏やかな姿を取り戻した。午後の強風は一時期、作業の継続を危ぶむほどに吹き荒れたが、3人のチームワークと適切な判断により、無事故で全ての工程を完遂することができた。25mという圧倒的な高さでの空中戦を終え、地上に降り立った瞬間の安堵感は、言葉では言い尽くせない。

最後は、3人で現場全体の最終確認と清掃を行う。今回の現場は2トンダンプではなく軽バンでの参戦だったため、伐採した材の処理は「指定された場所への集積」という形をとった。小切りされたカシの材を、後で見ても美しいと思えるよう、種類ごとに整然と積み上げる。ブロワーでおが屑を払い、庭の隅々まで掃き清めると、カシの梢を通り抜ける風が、朝よりもずっと軽やかに、心地よく感じられた。

「本当にスッキリしました。これで台風が来ても安心です」。作業後、空を見上げながら施主様がこぼされたその一言に、今日一日の疲れが吹き飛んだ。25mという高さは、お客様にとっては「自分たちではどうしようもできない不安」そのもの。それを我々の技術で「安心」へと変える。これこそが、樹木管理のプロとしての使命である。

「喜んでもらえてよかった」。その充足感を3人で分かち合い、使い込まれた道具を軽バンへと積み込む。川越の街に夕闇が迫る中、整備されたカシの木は、明日からの新しい光を浴びる準備を整えていた。今回の現場で得た信頼を糧に、私たちはまた次の空へと挑み続ける。





記入者: 株式会社 樹

現場: 埼玉県川越市 個人宅

人員: 3人

完了日: 2026/04/09(作業2日目・完遂)

成果: 樹高25mのカシの木剪定を完了。午後の強風条件下において、リギング(ロープ作業)と適切な判断により安全に材を降ろし、指定場所への集積を実施。お客様より「安心した」との高い評価をいただき終了。


 
 
 

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