さいたま市日進・巨木攻略4日目。16号沿いに響く職人の挨拶と、25m・20mのカシに挑む精鋭2人の記録
- いつきスタッフ

- 7 時間前
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①作業前
雲一つない快晴。2026年3月28日、土曜日。さいたま市北区日進、国道16号沿いの個人宅での作業は、今日で4日目を迎えた。週末ということもあり、16号を流れる車の量は平日よりも心なしか多く、独特の活気が現場を包んでいる。我々「株式会社 樹」の精鋭2人にとって、この喧騒はもはや日常の一部だ。
「おはようございます!」施主様への元気な挨拶から、一日は始まる。私たちの仕事は、単に木を切るだけではない。そこに住む方々、そして道行く方々に安心と元気をお届けするのも大切な役割だ。今日は施主様に「明日の日曜日も作業を続けさせていただきます」とお伝えした。4日間、毎日向き合い続けてきたからこそ生まれる信頼関係。その期待に応えるためにも、今日という一日を無事故で、かつ完璧な仕上がりで終えなければならない。
目の前には、昨日から引き続き取り組んでいる25mのカシ。そして新たに、20m級のもう一本のカシが控えている。どちらもこの家の歴史を見守ってきた巨木だ。8時を過ぎるのを待ち、住宅街へのマナーとしてチェーンソーの産声を上げる。昨日の疲れは残っていないと言えば嘘になるが、登攀道具を身に纏うたびに、不思議と背筋が伸びる。国道沿いの厳しい環境下、2人の阿吽の呼吸で、この「守り神」に新たな命を吹き込む戦いが、再び幕を開けた。

②剪定
25mと20m。二本のカシの巨木が、国道16号の喧騒を背に並び立っている。どちらもこの家の歴史を象徴する大木だが、その性格は微妙に異なる。25mの個体は、高く突き抜けるような伸び方をしており、風の影響をまともに受ける。対して20mの方は、枝が横に太く張り出し、周囲の構造物への干渉が激しい。これらを同時に、かつ安全に捌いていくのが今日のミッションだ。
剪定の基本は「残すべき枝」と「落とすべき枝」の峻別だが、この規模になるとその判断ひとつで木全体の重心が変わり、我々の足場としての安定性すら左右する。私は高所から階下の相棒と常に無線やハンドサインで連絡を取り合い、一本一本、慎重にチェーンソーの刃を入れていく。切り口からは、春の水分をたっぷり含んだカシ特有の力強い匂いが立ち上る。
16号を走るドライバーたちの視界を遮らず、かつ、剪定後もこの家の「守り神」としての品格を保てるか。その絶妙なバランスを探りながらの作業が続く。2人体制という限られた人数ではあるが、一人が切り、一人が地上で枝の落下を完璧にコントロールする。この無駄のない動きが、幹線道路沿いという特殊な環境下での安全を支えている。
二本の巨木を交互に見据えながら、空を切り拓いていく感覚。剪定が進むにつれ、木漏れ日が地面に描く模様が刻一刻と変化し、鬱蒼としていた空間が本来の軽やかさを取り戻していく。それは、木と、そこに住む人と、そして道行く人々との新しい関係を築き直す、職人としての誇り高き時間だ。


③登り作業
カシの巨木攻略において、最も神経を研ぎ澄ませるのが「吊るし作業」を伴う登り作業だ。樹高25mの頂付近。国道16号を流れる車の屋根が遥か下に見えるこの高さでは、切り落とした枝をそのまま自由落下させることは絶対に許されない。枝にロープを掛け、地上で待機する相棒と呼吸を合わせながら、一節ずつ慎重に降ろしていく「吊るし切り」を繰り返す。
しかし、今日のカシは一筋縄ではいかなかった。剪定を進める中で、数回、想定外の難所に直面した。吊るし降ろしている最中の枝が、幹の中ほどにある大きな「コブ」に引っかかってしまったのだ。ロープを緩めても、枝はコブに乗り上げたまま下まで落ちてこない。無理に引けば、枝が予期せぬ方向へ跳ね、私自身や周囲の建物を傷つける恐れがある。
地上からは見えにくい、この高所ならではの格闘。私は何度も姿勢を入れ替え、枝の重心を見極めながら、人力で枝を揺らし、コブから外す作業を繰り返した。25mの高さで自らの体を支えつつ、引っかかった枝と対峙する。腕の筋肉は強張り、額からは汗が滲むが、焦りは禁物だ。何度もトライし、ようやく枝がコブを滑り落ち、相棒の待つ地上へと吸い込まれていったとき、張り詰めていた空気がふっと緩む。
この「コブとの戦い」こそが、巨木攻略のリアリティだ。図面通りにはいかない、自然を相手にする仕事の厳しさ。しかし、その難所を一つひとつ、自分の手と技術で切り抜けていく感覚こそが、職人としての醍醐味でもある。2人という最小限の編成だからこそ、この緊迫した状況を共有し、乗り越えたときの信頼はより一層深まっていく。

④目立て
巨木カシとの格闘、そして「コブ」という思わぬ難所を乗り越えたところで、時計の針は正午を回った。午後のラストスパート、そして明日の日曜日まで続く作業を完璧に遂行するため、私は再び地面に腰を下ろし、チェーンソーのメンテナンスを開始した。
カシの木は、その緻密な年輪が物語る通り、非常に硬く粘り強い。午前中の激しい作業を経た刃は、目に見えぬ摩耗を繰り返し、その切れ味を確実に落としている。この「わずかな鈍り」を放置することこそが、現場における最大の敵だ。私は丸ヤスリを手に取り、一刃一刃、魂を込めるように研ぎ上げていく。2人きりの現場では、一人が道具の調整に集中している間、もう一人は周囲の清掃や安全確認を黙々とこなす。この静かな連携こそが「樹」の強みだ。
目立ては、ただ刃を鋭くするだけではない。それは、自分自身の集中力を再起動させるための儀式でもある。国道16号沿いという常に他者の視線がある環境下で、騒音を抑え、狙った通りに木を捌くには、この「研ぎ澄まされた刃」が不可欠だ。切れ味が良ければ、無駄な力を入れずに済み、結果として25mの高所でも安定した姿勢を保てる。
16時までの限られた時間。そして明日の日曜作業へ向けて。一本のヤスリが奏でる金属音が、午後の冷涼な空気の中に響く。研ぎ終えた刃先が、春の陽光を鈍く跳ね返すのを確認し、私は再び立ち上がった。準備は整った。この切れ味があれば、どんなに硬いカシの枝も、まるで吸い込まれるように落ちていくはずだ。

⑤玉切り
16時。現場に鳴り響いていたチェーンソーの音が止まり、いよいよ本日の最終工程である「玉切り」と積み込みが始まった。25mと20m、二本の巨木から切り出された枝葉は、庭の一角を埋め尽くさんばかりの山となっている。これを2トンダンプに収まるサイズへと手際よく切り刻んでいく。
カシの木は、切り倒した後もその重量感は変わらない。太い幹の部分は、一人がチェーンソーで一定の長さに切り揃え、もう一人がそれを間髪入れずに運び出す。4日目ともなると、2人の動きはもはや一つの生き物のように連動している。国道16号沿いのこの現場では、搬出作業中も常に周囲の状況に目を光らせる必要がある。「明日も作業をさせてもらう」という施主様の厚意に応えるためにも、今日のうちにできる限りの枝葉をダンプに積み込み、現場の整理を完璧に終わらせることが、プロとしての誠実さだ。
人力での積み込みは体力の限界との戦いでもあるが、積み上がっていく荷台を見るたびに、今日一日、あの高所で巨木と対峙してきた実感が込み上げる。2人きりで25mの空を切り拓き、難所だった「コブ」を攻略し、そして今、こうして安全に地上での作業を締めくくろうとしている。
「お疲れ様でした!」 最後に道具をダンプに収め、現場を清掃し終えたとき、西日に照らされたカシの木が、朝とは見違えるほど清々しい姿で立っていた。4日間の激闘を経て、庭には新しい光と風の通り道ができている。心地よい疲労感を覚えながら、我々は明日、最終的な仕上げに向けて再びこの地を訪れる。日進の街に静かな夜が訪れる前に、満載のダンプとともに、私たちは誇りを胸に現場を後にした。

記入者: 株式会社 樹
現場: 埼玉県さいたま市日進個人宅(16号沿い)
人員: 2人
完了日: 2026/03/28
成果: 25mおよび20mのカシの木剪定作業を継続。吊るし作業中の難所(コブへの引っかかり)を技術で克服し、無事故で4日目の工程を終了。施主様の理解を得て、翌日の日曜日に最終仕上げを行う予定。



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