八王子市鑓水・神社の杜を守る。樹高25mの巨木ナラと20mカシに挑む、静寂と情熱の伐採記録
- いつきスタッフ

- 3月2日
- 読了時間: 11分
①作業前:神域に差し込む朝光と、25mの巨塔が放つ無言の圧力
2026年3月2日、月曜日。八王子市鑓水の現場に到着した私たちが目にしたのは、神社の境内に隣接する、深く、そして力強い緑の静寂でした。朝の柔らかな光が木々の隙間から幾筋もの光の矢となって差し込み、幻想的な風景を作り出しています。しかし、私たちプロの目は、その美しさに感嘆するよりも先に、空を覆い尽くさんとする枝葉の広がりと、それぞれの木が持つ「意志」を読み解くことに集中します。
今回のメインミッションは、樹高25mに達するナラの木2本の枝落とし、そして20mのカシの木の伐倒です。見上げれば、首が痛くなるほどの高さで枝が複雑に絡み合い、隣接する家屋の屋根や神社の社殿を飲み込まんばかりの勢いで張り出しています。この高さ、この密集度。まさに「難易度:中」という言葉以上に、現場には一瞬の油断も許されない、独特の緊張感が漂っていました。
「カシの20m、神社側に重心があるな。あっちへ倒すわけにはいかないぞ」
「ナラの枝も相当な重量だ。切り落とした時の跳ね返りを計算しないと、自分たちが危ない」
スタッフ2名は、作業開始前の静寂の中で、幾度も視線を交わしながらシミュレーションを重ねます。現場のすぐ側には民家の瓦屋根があり、フェンス一枚隔てた向こう側は人々の祈りの場である神社です。私たちは、この神聖な場所の静寂を乱さぬよう、音出しは8時を過ぎるまで厳禁というルールを自らに課しています。この待機時間こそが、樹上での動きを完璧にイメージし、リスクを最小限に抑えるための「戦略会議」の時間となります。
プリウスの荷台から下ろされたのは、使い込まれた2台のチェーンソーと、命を預ける登り道具一式。サドル、ロープ、カラビナ……それぞれの道具を手に取り、指先の感触で異常がないかを確認していく行為は、さながら出陣前の武士が刀を改めるような、神聖な儀式にも似ています。
特に今回の現場で注視したのは、木々の根元の状態と、足場の安定性です。神社の横という立地ゆえ、地面には歴史を感じさせる起伏や石造物があり、作業中の移動一つとっても細心の注意が求められます。
「よし、光が強くなってきた。8時だ。まずはナラの25m、枝打ちから攻略しよう」
澄み渡った空気の中、私たちはヘルメットを締め直し、巨塔の頂を目指す第一歩を踏み出しました。これから始まる1日完結の挑戦。それは、木々を「切る」だけでなく、この神域の風景に再び新しい光と安全を届けるための、職人のプライドをかけた戦いの始まりでした。

②枝落とし作業:樹高25m、空を削り取る樹上のプレシジョン・ワーク
いよいよ、本日の最難関工程である「枝落とし作業」が本格化しました。ナラの木の樹高は25m。地上から見上げるのとは違い、登攀(とうはん)道具一式を駆使して最上部まで辿り着いたスタッフの視界には、八王子市鑓水の街並みとともに、複雑に絡み合った枝葉の巨大な迷宮が広がっています。
この高さでの枝落としにおいて、絶対に避けなければならないのは「枝の自由落下」です。神社の社殿、そしてすぐ隣に迫る民家の屋根。一枝たりともコントロールを失えば、取り返しのつかない事態を招きます。
「ナラの最上部、枝の密度が相当高い。リギング(吊り切り)の支点を細かく変えながら行くぞ」 「了解。屋根とのクリアランスは地上でしっかり見ておく。合図に合わせて切り進めてくれ」
スタッフはサドルに体重を預け、体幹を固定しながら2台のチェーンソーを使い分けます。太い枝にはパワーのあるモデルを、細かい枝打ちには取り回しの良い軽量モデルを。樹上のスタッフが放つチェーンソーの音が、曇り空の下に鋭く響き渡ります。切り落とされた枝は、地上と連携したロープワークによって、まるで重力を無視するかのようにゆっくりと、狙い通りの空きスペースへと誘導されていきます。
作業が進む中、25mという高度ならではの緊張感が現場を支配します。 「……風が出てきたな。揺れが大きくなる前に、一番重い北側の枝を仕留めるぞ」
この時の判断が、その後の作業の安全を決定づけます。枝を落とすたびに、木の重心は刻一刻と変化します。私たちはその変化を身体全体で感じ取りながら、木の「意志」を宥めるように一刀一刀を入れていきました。
また、私たちの誇りである「マナー」へのこだわりも、この樹上作業で発揮されます。
切り粉(きりこ)の制御:高い位置からの断裁は、切り粉が風に乗って隣家へ飛散しやすい。私たちはチェーンソーの刃を入れる角度をミリ単位で調整し、排出方向を常に現場の内側へと向け続けました。
音への配慮:8時過ぎからの「音出し」開始以降も、不必要にエンジンを回し続けない。断裁の瞬間だけ出力を上げ、それ以外はアイドリングまたは停止させることで、神社の静寂を最大限に尊重します。
樹上のスタッフが、まるで重力から解き放たれたかのように軽やかに、しかし慎重に枝を払っていく様子は、まさに「空中庭園」の剪定作業。25mあった巨木の冠が少しずつ削ぎ落とされ、光が遮られていた神社の境内に、再び空の広がりが戻り始めました。
しかし、この高所作業の果てには、次なる試練である「伐倒」が待ち構えています。枝を失い、一本の巨大な槍となったカシとナラを、いかに安全に大地へと下ろすか。私たちは樹上での成果を確認しながら、地上での次なる作戦へと意識を切り替えました。



③伐倒作業:巨躯が揺らぐ一瞬の緊張と、大地の鼓動を感じる断裁
枝落としを終え、天を突くようだったナラとカシは、今は一本の巨大な柱となって静かにその時を待っています。しかし、ここからが本当の正念場です。樹高20m級の主幹を、限られたスペースへと正確に倒し込む「伐倒作業」へと移ります。
神社に隣接し、周囲に家屋が迫るこの現場では、わずかな角度の狂いも許されません。
「受け口の角度、よし。神社側への傾斜はロープで完全に相殺できているな」
「了解。追い口を入れるタイミングを合わせるぞ。周囲の安全確認、オールクリアだ」
スタッフが慎重にチェーンソーの刃を根元に入れます。住宅街の静寂を切り裂くように、硬質なカシの幹を削り進む力強い音が響き渡ります。この瞬間、地上のスタッフは五感を研ぎ澄ませ、木の僅かな「震え」や「音の変化」を読み取ります。
ここで、本日の難易度を「中」たらしめた一瞬のヒヤリハットが発生しました。伐倒の際、予期せぬ幹の跳ね返りがあり、切断された木が自分たちの方向へとわずかに迫ってきたのです。
「危ない、下がれ!」
「くっ……足元が少し取られたが、大丈夫だ。体制を立て直した」
一瞬の判断ミスが命取りになる現場。しかし、私たちは即座に回避行動をとり、二次災害を未然に防ぎました。この経験こそが、次のカットへのさらなる慎重さと、安全管理への執念を燃え上がらせます。
再び重厚なエンジン音が響き、ついに20mの巨躯がゆっくりと、しかし抗いがたい重力に従って傾き始めました。狙い通り、神社や家屋を避けたピンポイントの着地。ズシンという、大地を揺らす衝撃とともに、長い年月この地を見守ってきた木が、静かにその役割を終えた瞬間でした。
倒伏後、間髪入れずに「玉切り」へと移ります。人力での集積をスムーズに行うため、運びやすいサイズへとスピーディーに細分化していきます。
「よし、この調子で集積まで一気に終わらせよう。音出しの時間は限られているからな」
巨木を倒した達成感と、一瞬の危機を乗り越えた緊張感。その双方が入り混じる中、私たちは次なる工程、そして自分たちの身体を労わる休息の時間へと向かいます。

④お昼ご飯:静寂の境内で交わす、活力の源と束の間の安らぎ
午前の激闘を終え、神社の杜には再び静かな時間が流れ始めました。25mの樹上で神経を研ぎ澄ませ、伐倒時のヒヤリハットを乗り越えた身体は、想像以上にエネルギーを消費しています。ここでしっかりと「食」と向き合い、午後の作業に向けた英気を養うことも、最後まで集中力を切らさないためのプロの戦略です。
「ふぅ、やっぱり25m級の枝打ちは足にくるな。しっかり食べておかないと」
「ああ。午後は目立てからスタートだ。少し長めに休憩を取って、心拍数を落ち着かせよう」
神社の神聖な空気感に包まれながら、スタッフ2名は持参した食事を囲みます。今回の現場は神域に隣接しているため、食事の際もゴミ一つ残さないことはもちろん、周囲の景観に溶け込むような「静かな休息」を徹底します。時折、境内の砂利を踏む参拝客の音が聞こえる中、私たちは温かい飲み物で冷えた身体を内側から温め、しばしの談笑に花を咲かせました。
こうした休息時間は、単なる空腹を満たすためだけのものではありません。
情報共有の再確認:午前中のヒヤリハットを振り返り、午後の伐倒や集積ルートに潜むリスクを改めて共有します。
機材のコンディション確認:午前中の作業で酷使したチェーンソーの挙動や、燃料・オイルの残量を頭の中で整理します。
精神的なリセット:高所作業での緊張状態から一度脳を解放し、午後の「精密な整地」に向けた集中力を再構築します。
「……よし、身体が軽くなってきた。午後の目立ても気合を入れていくぞ」
食事を終え、最後の一口を飲み込む頃には、スタッフの目には再び鋭い職人の光が戻っていました。神社の杜から吹く風が、午後の作業開始を告げるように優しく通り抜けていきます。私たちは食器を片付け、周囲を完璧に清掃した後、次なる工程である「チェーンソーの魂」を研ぎ澄ます作業へと向かいました。

⑤目立て作業:職人の指先が蘇らせる、0.1ミリの「切れ味」と「魂」
美味しい昼食で活力を取り戻した後は、午後の作業の精度を決定づける最も繊細な時間、**「⑤目立て作業」**に入ります。午前中の激しい伐採作業、特に樹高25mのナラの硬い繊維を断ち切り続けたチェーンソーの刃は、目に見えないレベルでその鋭さを失っています。プロの現場において、切れ味の落ちた刃を使い続けることは、作業効率を下げるだけでなく、キックバックなどの重大な事故を招く引き金となります。
地面に腰を下ろし、チェーンソーを自らの足の間にしっかりと固定する。この「目立て」の姿勢は、職人が自らの道具と対話する、最も静謐で集中力の必要な時間です。丸ヤスリを手に取り、刃の一枚一枚に対して、決められた角度、決められた圧力で正確にヤスリを滑らせていきます。
「ナラの硬い幹を叩いた後だからな。刃先がわずかに丸まっている。ここを立て直さないと、午後の切り口が荒れるぞ」
「ああ、特に20m級のカシを相手にするなら、剃刀のような切れ味が必要だ」
スタッフの指先は、0.1ミリ単位の金属の摩耗を感じ取り、最適なエッジを再生させていきます。ヤスリが刃を擦る「シュッ、シュッ」という規則正しい音だけが、神社の杜に響きます。この作業は、単に「刃を研ぐ」という物理的な行為を超え、午後の過酷な作業に向けた自分自身の「集中力」をも研ぎ澄ます、精神的なチューニングでもあります。
目立てが完了した刃先は、鈍い銀色から、周囲の光を鋭く反射する鏡のような輝きを取り戻しました。指の腹で軽く触れれば、吸い付くような鋭利な感覚が伝わってきます。これで、午後の大仕事に向けての準備は完璧に整いました。
「よし、完璧な刃が付いた。これでカシの繊維もバターのように切れるはずだ」
道具を慈しみ、最高最善の状態に整える。この目立たない、しかし妥協のないルーティンこそが、難易度の高い現場を「安全」かつ「美しく」完遂するための、私たちだけの絶対的なルールです。再び立ち上がったスタッフの目には、研ぎ澄まされた刃と同様の、鋭いプロの光が宿っていました。

⑥作業後:神域に満ちる新しい光と、職人が大地に刻んだ安寧の風景
八王子市鑓水、神社の傍らで繰り広げられた本日のミッションは、予定通り17時を前にして全ての工程を完遂しました。朝の薄暗い曇り空から始まった1日は、作業が進むにつれて雲間から陽光が差し込み、まるで私たちの完遂を祝福するかのような穏やかな夕暮れへと変わりました。樹高25mのナラ2本、そして20mのカシの木。かつて神域の空を覆い尽くしていた巨塔たちは姿を消し、そこには見違えるほど明るく、清々しい空間が広がっています。
作業後の現場を見渡すと、劇的な変化に息を呑みます。まず、空の広さが圧倒的です。25mという、ビル8〜9階に相当する高さまで張り出していた枝葉がなくなったことで、神社の境内や隣接する住宅に、これまでは届かなかった暖かな陽の光が隅々まで行き渡るようになりました。これは単なる美観の向上だけでなく、強風時の枝折れや倒木のリスクを完全に解消し、地域の方々が安心して暮らせる「安全な日常」を取り戻したことを意味します。
私たちのこだわりである「清掃」の結果も、現場の随所に現れています。20m級の巨木を3本扱えば、現場には膨大な量の切り粉(きりこ)や枝屑が散乱します。しかし、私たちはブロワーと手箒を駆使し、神社の玉砂利や目地、隣家の塀の際に至るまで、徹底的に木屑を除去しました。作業を終えて私たちが去った後、そこに残るのは「静寂」と「清潔」だけであるべきだ――そのプロとしての矜持を、今回も完璧な形で具現化しました。
「切り株の処理も、周囲の法面(のりめん)も完璧だ。神社側への影響も一切なし」
「ヒヤリハットもあったが、その分、安全への意識を再確認できた良い現場だったな」
スタッフ2名は、愛車のプリウスに使い込んだ機材を積み込みながら、最後にもう一度現場を一周してチェックを行います。25mの樹上での枝打ち、伐倒時の緊張感、そして精緻な目立て作業。今日一日のすべてのプロセスが、この美しく整えられた更地と、広大な空に凝縮されています。人力で集積された伐採木たちは、これから適切に処理され、新しい資源へと生まれ変わる準備を整えています。
神社の境内を吹き抜ける風が、心なしか作業前よりも軽やかに感じられます。私たちがこの地に刻んだのは、確かな伐採技術と、この神域を愛する人々への深い敬意です。八王子の空の下、美しく拓かれた風景を背に、私たちは心地よい疲労感とともに次なる現場へと向かいます。そこにはまた、新しい光を待っている景色があるはずですから。

記入者: 株式会社 樹
現場: 八王子市鑓水(神社隣接個人宅)
人員: 2名
完了日: 2026年3月2日(月曜日)
成果: カシ20m1本伐倒、ナラ25m2本枝打ち完遂、清掃・撤収完了



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