八王子市鑓水・竹林攻略12日目。20mの竹50本と対峙する、密集地での精密伐採と職人の意地
- いつきスタッフ

- 2 日前
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①作業前
空は突き抜けるような青。3月に入り、風の中に少しずつ春の匂いが混じり始めたが、八王子の朝はまだ肌を刺すような冷たさが残っている。今日でこの現場も12日目。東京都八王子市鑓水和泉山、(株)クレーベスト様のすぐ近くに位置するこの竹林が、今回我々が向き合っている「主」だ。
見上げれば、樹高20mはあろうかという竹が、天を隠すほどに密集している。竹林特有の、サワサワと葉が擦れ合う音が耳に心地よい……なんて言っていられるのは、ここが仕事場ではない人間だけだろう。我々職人にとって、この「密」は厄介そのものだ。1本1本が互いの枝を絡ませ、倒れる先を拒むように立ちはだかっている。
今日の目標は50本。数字だけ見れば単純だが、この密集具合では、ただ切れば倒れるというものではない。隣の敷地を汚さない、傷つけない。そんな当たり前のマナーを守り抜くためには、朝一番の段取りが全てを決める。8時を過ぎるのを待ち、静寂を破るチェーンソーの始動音が、今日の戦いの合図だ。メンバーは3人。12日間で培った阿吽の呼吸で、この緑の壁を切り崩していく。


②玉切り
伐倒した竹を次々と「玉切り」にしていく。言葉で言えば簡単だが、この20m級の竹を相手にするのは、普通の樹木とはまた違った神経を使う。竹は中が空洞で弾力がある。不用意に刃を入れれば、竹が裂けたり、チェーンソーの刃が跳ね返される「キックバック」の危険も孕んでいる。密集地ゆえに、倒れた竹が他の幹に複雑に絡み合っており、どの節から切り離せば安全に処理できるか、一瞬の判断が求められる。
チェーンソーの鋭い音が静かな鑓水の空に響き渡る。12日もこの現場にいると、竹の状態も手に取るように分かってくる。節の間隔、しなり具合、そして刃を入れた瞬間に伝わる手応え。密集した竹を一本ずつ切り離し、運びやすいサイズへと刻んでいく。この地道な作業こそが、後の「人力運搬」の効率を左右する生命線だ。
特に気を配るのは、切り離した瞬間の「跳ね」だ。絡まった枝の張力が解放されるとき、竹は想像以上の勢いで動く。3人のメンバーが互いの位置を常に把握し、声を掛け合いながら進める。住宅が近いこの現場では、音出しの時間は限られている。効率よく、かつ確実に。職人の意地が、チェーンソーの刃先から伝わってくる。

③運搬集積
玉切りを終えた竹を、今度は人力で集積場所まで運び出す。これがまた、想像以上に体に堪える作業だ。竹の一本一本は木に比べれば軽そうに見えるかもしれないが、20m級ともなれば話は別だ。水分を含んだ青竹を数本まとめて肩に担ぎ、不安定な斜面を一歩ずつ踏みしめて歩く。足元には切り落とした枝や葉が積もり、油断すれば足を取られて転倒しかねない。
広大な敷地の中、軽バンを停めた場所と竹林の間を何度も往復する。重機が入れば一瞬かもしれないが、この現場の地形と細やかな配慮が求められる状況では、結局は「人間の手」が一番確実だ。肩に食い込む竹の重みを逃がしながら、効率よく積み上げていく。集積場所が乱雑になれば、後の片付けに倍の時間がかかる。だからこそ、疲労が溜まってくる中盤こそ、丁寧に、かつスピーディーに。
八王子の山間に響くのは、我々の荒い息遣いと、竹が重なり合う乾いた音だけ。3人の連携で、50本分の竹が少しずつ整然と積み上げられていく。人力によるこの地道な積み重ねが、この現場を美しく仕上げるための絶対条件だ。額から流れる汗を拭う暇もなく、次の竹へと手を伸ばす。



④除伐
現場はさらに奥、竹が最も密集しているエリアへと足を踏み入れる。ここでの「除伐」は、ただ空間を広げるための作業ではない。20m級の竹が互いに枝を組み、まるで巨大な檻のように立ちはだかる中、どの一本を抜けば全体が「動く」のかを見極める、極めて精度の高い判断が求められる。密集しすぎて切りづらい。その一言に尽きるが、職人としてはその状況こそが腕の見せどころだ。
チェーンソーを差し込む隙間すら慎重に選ばなければならない。強引に倒そうとすれば、跳ね返った竹が自分たちを襲う。あるいは、絡まったまま宙吊りになり、さらに危険な状況を作り出してしまう。我々は一本一本、その竹の「意志」を読み取るように刃を入れていく。切り倒すたびに、頭上を覆っていた緑の天井がわずかに割れ、そこから鋭い春の光が地面に差し込む。その光の筋が増えていくたびに、現場に停滞していた空気が動き出すのを感じる。
このエリアを攻略しなければ、50本という今日のノルマは達成できない。足元にはこれまでに伐り出した竹が横たわり、常に不安定な姿勢での作業を強いられるが、集中力は切らさない。密集地を切り開き、視界を確保する。この「道を作る」作業が進むにつれ、鬱蒼としていた竹林が少しずつ、本来の風通しの良さを取り戻していく。

⑤お昼
時計の針が正午を回る。密集した竹林との格闘、そして人力での運搬作業で、体は芯から熱を帯びている。チェーンソーの音を止め、一時の静寂が現場を包む。この瞬間が、張り詰めていた神経をほどく唯一の時間だ。
切り開いた竹林の脇、日当たりの良い場所に腰を下ろす。八王子の柔らかな春の陽光を浴びながらの現場での休息。特別な贅沢はないが、使い込まれた道具を傍らに置き、泥のついた作業着のまま摂るエネルギー補給は、何物にも代えがたい活力となる。
会話はそれほど多くない。午前中の進捗を頭の中で反芻し、午後の50本完遂に向けたイメージを膨らませる者。心地よい疲労感に身を任せ、しばし目を閉じる者。3人それぞれが、自分のリズムで午後の英気を養う。竹の密集地を切り進むには、力任せではなく、こうした静かな時間で養われる「心の余裕」が不可欠だ。短い休息を終え、立ち上がるときには、再び職人の顔に戻っている。

⑥目立て
午後の作業を前に、避けては通れない大切な儀式がある。チェーンソーの「目立て」だ。竹という植物は、その美しい見た目に反して、驚くほど刃を痛める。表面の硬い皮と、繊維に含まれるシリカ成分が、まるで砥石のようにチェーンソーの鋭さを奪っていくのだ。午前中だけで50本近い巨竹と格闘した刃は、すでに悲鳴を上げている。
丸ヤスリを手に取り、一刃ずつ丁寧に研ぎ上げていく。角度、押し出す力加減、そしてリズム。こればかりは経験がものを言う世界だ。指先に伝わる微妙な引っ掛かりを感じながら、鈍った刃に再び命を吹き込む。目立てが甘ければ、午後の作業効率は目に見えて落ちる。それどころか、無理に力を入れることでキックバックを誘発し、重大な事故に繋がりかねない。
「切れない刃物ほど危ないものはない」――。これは現場の鉄則だ。住宅街に近い鑓水の現場では、作業をスムーズに終わらせることも近隣へのマナーの一つ。鋭さを取り戻した刃が、竹の繊維を力強く捉える感触を想像しながら、黙々とヤスリを動かす。この静かなメンテナンスの時間こそが、プロとしての矜持を保ち、午後の安全を担保するのだ。

⑦作業後
西日が竹林の向こう側に傾き始める頃、ようやく今日予定していた50本の伐採と集積がすべて完了した。朝方、あれほど威圧感を持って迫りくるようだった緑の壁が、今は嘘のように整然としている。密集して切りづらかったエリアも、適切に除伐を進めたことで見違えるほど風通しが良くなった。切り株の白さが、今日の戦いの跡を物語っている。
最後は、現場を隅々まで清掃して回る。竹の節や細かい枝は、放置すれば近隣の方々の迷惑になるだけでなく、次にこの場所に入る誰かの足元をすくう危険物にもなり得る。レーキを使い、人力で丁寧に、そして執拗に。隣接する敷地との境界線も、我々が来る前よりも美しく仕上げるのが「樹」の流儀だ。現場を去るとき、そこにはただ「綺麗になった」という事実だけが残るように。
12日という長い期間、この鑓水の地で竹と向き合い続けてきた。体は重く、疲労はピークに近いが、やり遂げたという達成感がそれを上回る。振り返れば、空は変わらず青く、整備された竹林が静かに夕陽を浴びていた。安全を最優先に考え、誰も怪我をすることなく一日を終えられた。この当たり前のようで最も困難な目標を達成できたことに、深い安堵を覚える。道具を軽バンに積み込み、我々は次の現場へと心を切り替える。


記入者: 株式会社 樹
現場: 東京都八王子市鑓水和泉山
人員: 3人
完了日: 2026/03/12
成果: 樹高20m級の竹50本の伐採・玉切り・人力による集積を完了。密集地の除伐により竹林の健全な環境と安全な視界を確保した。



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